~~~はじめに~~~

         「被差別部落」…皆さんはこの言葉を聞いてどう思われますか?
私が、このブログを始めることにしたのは、職場で「○○地区は危ない」などと
“心無い会話”が聞こえてきたからでした。それも複数の方から…。政策的には、約150年前に「解放」されたはずの被差別部落ですが、職場だけではなく、インターネットやパルプマガジン(低俗雑誌)などで、今尚、多くの差別があることを実感します。被差別部落出身の妻と結婚し、部落の暮らしを知る中で「部落の良さや暖かさ」を皆さんに伝えたいと思います。

2019年2月7日木曜日

部落の食文化-5:油かす(あぶらかす)-その2【顧問からの聞取り編】

以前、『部落の食文化-2:油かす(&写真集「屠場」の紹介)』と題し、
「油かす」の紹介を行いました。

まず、油かす(あぶらかす)の復習から。

油かすは、牛馬の腸などの「放るもん(ホルモン)」を
じっくり炒り出して油を取った残りカス。
残りカスと言うからには、元々は「油」を取った後の副産物なんですが、
被差別部落の方々は上手に利用し、料理に生かしてきました。

しばしば、油かすは「被差別部落のソウルフード」なんて言われています。
生産地区が食肉産業が盛んな部落に限られるため、
該当部落はもちろん、近郊部落では馴染みがある食材なのでしょうが、
全国津々浦々の部落ではどうなんでしょうね?

例えば、近年のB級グルメブームなんかで、
油かすやさいぼしなど、被差別部落の伝統食材も一躍フューチャーされ、
今や全国区のメジャー食材の一つに昇格した感がありますし、
油かすを使った焼きそばとしてB-1グランプリ殿堂入りを
果たしている「富士宮やきそば」はあまりにも有名ですよね。

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さてさて、本日はですが、、、
前回の「油かす」特集から、新たに学んだことを書いてみようと思います。

羽曳野市のM部落(食肉産業が非常に盛んな被差別部落)で生まれ育ち、
精肉店を営んでおられる、当「被差別部落の暮らし」の食肉担当顧問から、
非常に興味深いお話を伺いました。

顧問の家の近くに「油かす」製造工場があるそうなのですが、
昨年末、顧問の家の前を含む近辺一帯で、
「下水が溢れ出す」という出来事がありました。

調べてみると、油かす工場から出た廃水に含まれている脂分が
長年に渡り下水管に付着。
結果、下水が詰まり溢れ出したということです。
動物性油脂っていうのは冷えると固まりますからね。

余談として。。。
M地区を流れるH川の古い航空写真が、ネット上でタマに話題になります。
「赤い川」「血の川」って。

つまり、地区の屠場から屠畜の際に出る血液を含む汚水が
直接、川に流されており、川が赤く染まっているという事なのです。

以前、この辺りの事も顧問に聞いてみたのですが、
「事実」ということでした。

顧問が子供の頃には、屠場の川側に廃液を貯めるプールがあり、
そこから川に直接排水されていたそうです。

いや、例え事実であったとしても誤解をしないでください。
これは、「部落だから」とか「屠場だから」とかいうことではなく、
当時の時代背景・・・どの企業も衛生・環境管理に無頓着な時代であったのです。
それが、公害病や環境破壊を生むことになったのですが。
いずれにしても、企業の環境に対する意識が低い時代でもありました。
今は勿論、厳格な廃水管理がなされています。

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油かすは「ホルモン(内臓)を炒り出して油を抽出した残りカス」ということは、
先程述べたとおりですが、羽曳野の顧問からは、もう一つ興味深い話を聞きました。

『昔、隣のおばさんがバケツに入れたお湯を川に捨てているのを見た』
つまり、もう一つの「油かす」作り方ではないかと・・・

要約すれば、バケツに入れた内臓に熱湯を掛け、
浮き出した油を川に捨てて「油かす」を作っていたという事なのです。
ただ、これには顧問も確証が持てず、
”恐らくそうに違いない”と推測の範囲の話なのですが、
実は、なまじ推測とは言い切れないのではないかと、
私も思う次第であります。

その根拠として・・・

部落の食文化-3 フク・フクゼン・フクカスで紹介しましたフクなんですね。
フクというのは、上記のリンクをクリックしていただくと詳しく書いておりますが、
牛の肺のことで、地方名としてフクゼン・フクカス・フワ等と呼ばれています。

部落の「天ぷら」と言えば、エビやかぼちゃではなく、
フクやミノなどのホルモンを用いた天ぷらが部落流。
(もちろん、エビもイカもかぼちゃも食べます)

私も好きで、素材を買ってきて自宅でも調理しますが、
やはり、専門である部落の肉屋さんで売っている天ぷらが美味しいですね。

上の写真は、奈良県の食肉産業が盛んなT部落で購入したフクですが、
表記を見てもらうと分かる通り「油かす(店主はフクカスと言っていました)」
と記載されています。
しかし、商品自体は炒ってあるのではなくてボイル。

さて、ここで顧問の証言とフクカスが繋がった訳です。
ここからは、私の推測ですが・・・

【おばさんは】
1、フクを作っていた。
2、やはり、腸を用いた従来の油かすのボイルタイプを作っていた。
の2点でほぼ間違いないと思われるのでしょうが、いかがでしょうね?

いずれにしても、部落には、我々が持ち得る食肉文化の何倍もの
知識・技術・伝統が蓄積されており、
非常に素晴らしい食文化の一つであると言えます。

思えば、明治以前は穢れに対する忌避意識があり、
食肉もおおっぴらには出来ず(実際は隠れて食べていましたが)
皮革業に携わる被差別部落の先人達をエタ・カワタ等と賤視してきました。

ところがどうでしょう?
今私達は、ほぼ毎日と言っていいほど何らかの肉を食べ、
ホルモンに舌鼓を打ちます。
しかも、靴や鞄・衣服など多くの革製品に身を包みながら。

こうなると、
穢れって一体なんなんでしょうね?
差別って一体何なのでしょうか?

被差別部落問題に限らず、全く意味も根拠もない差別意識によって、
今、こうしている瞬間にも多くの差別が生まれています。

あの人よりいい会社に努めている。
あの人よりお金持ちだ。
あの人より学歴が良い。

他人と比べ、他人の劣っているところを見つけるのが差別の根源であるならば、
「差別」は人が元々持っている性かもしれません。
しかし、だからと言って、なくす努力を怠ってはいけません。
だから、私は今日もこうして書いています。
差別が無くなる日まで。

少し説教臭くなってきましたので、今日はここまでにしたいと思います。

次回は、部落の食文化-6:油かす(あぶらかす)その3【北出昭氏のお話編】
と題し、映画「ある精肉店のはなし」ご出演の北出昭氏に
教えていただいた油かす話をお届けする予定です。
どうぞ、お楽しみに!!